- Q
悪臭・異臭・腐敗臭、消臭は難しい?
- A
「ニオイ」というものは不思議なものである。
無色透明で目には見えず、風のように音を発することもなく、温度のように肌で感じられるものでもない。
文字で書く場合でも、「匂い」「臭い」、「香る」「薫る」など、ニオイの源や感じ方によって表現の仕方が変わる。
嗅覚とは?
通常、ニオイは色々な物質が混ざり合った複合体で存在し、五感の一つ臭覚(嗅覚)、つまり鼻でしか感じることができない。
「濃淡」「強弱」については臭気測定器によって相対的に数値化できるものもあるが、気温や湿度に影響を受けるうえ、その性能は限定的。
ニオイの種類までは識別できず、例えば、香水臭と糞尿臭が同じ数値を示す場合もある。
また、「いいニオイ」と「くさいニオイ」の違いを識別することもできない。
やはり、一般的には、人の鼻の方が機械よりも敏感で高性能。
しかし、これは、あくまで人の感じ方によるものであり、しかも、それは、他人と共通するものではなく、個人個人・一人一人異なるデリケートかつ曖昧なものでもある。
芳香と悪臭の違いは?
多くの人が容易に“いいニオイ”と感知する香水とか、多くの人が容易に“クサい”と感知する糞尿なら「快・不快」のジャッジはしやすい。
しかし、現実には、判定困難なニオイも多い。
納豆やキムチのニオイが好きな人もいれば嫌いな人もいる。
同じニオイであっても、食べるニンニクはいいニオイに感じるけど、他人の口からでるニンニク臭には嫌悪感を覚えることもある。
良いニオイの香水でも、つけすぎると悪臭になったりする。
自分の体臭には鈍感でも他人の体臭には敏感であったり、自宅のニオイは気にならないのに他人の家のニオイは気になる場合もあったりする。
臭覚の鋭鈍にも個人差があるだろうし好みの違いもある。
また、同一人物であっても、環境や温湿度、体調や精神状態によっても感じ方は変わってくるだろうし、嗅ぎ続けて感覚が麻痺したり、経験や年齢等によって好みが変わったりすることもあるだろう。
このように、一つにニオイに対しても、一人の人間にとっても、その感じ方や捉え方は千差万別となり一筋縄にはいかないのである。
ニオイはメンタルに影響する?
本来、ニオイは鼻で感じるもの、鼻でしか感じられないものなのだが、ショッキングな出来事に遭遇した場合などは、「人は鼻だけでなく頭でニオイを感じる」「精神に刻まれたニオイが忘れられなくなる」ということがある。
とりわけ、遺体系の異臭は、鼻の奥にある人の精神に深く刻み込まれやすい。
単に「嗅ぎなれないニオイだから」ということだけではなく、生き物が持つ生存本能に抗う“死”というものに対する強い恐怖感や嫌悪感が大きく影響するからだと思われる。
多様性を尊重し認め合うこと求められる時代、多くの仕事がそうであるように、ニオイ、しかも極めて非日常的なニオイを扱うことが多いこの仕事においても、誰もが同じメンタリティーを持っているわけではないことを充分に理解して務めることが大切なのである。
ヒューマンケアの特殊清掃・孤独死の事例
住宅地に建つ軽量鉄骨構造の一般的なアパートの一室で住人が孤独死
画像の現場は、住宅地に建つ軽量鉄骨構造の一般的なアパート。
その一階の一室で住人が孤独死。
季節の暑さも手伝って、遺体の腐敗は著しく進行し、重度の汚染と異臭と害虫が発生。
発見のキッカケは、隣室住人による管理会社への「数日前から異臭がする」「隣の部屋から臭ってきているよう」との通報。
現場で悪臭を確認した管理会社は良からぬ事が起こったことを察し、ドアを開ける前に警察に通報。
そうして、室内で起こった事態は明るみに。
ただ、大筋では、このような現場でやるべきことは決まっている。
特殊清掃・一次消臭消毒・家財処分・内装解体・二次消臭消毒・内装新設・・・迅速かつ粛々と作業は進んでいき、当室に充満していた著しい異臭は日に日に低減し、内装を新設復旧させる前に消滅した。
当初、異臭は外部にも漏洩。
玄関ドアの隙間から漏れ出ているのは明らかで、部屋の前に立つと明らかな異臭を感知。
風向きに左右されながらも、それは隣室の前でも感じられた。
「玄関前が臭い」と、共用部に漂う異臭について苦情を申し立てていた隣人は、そのうちに「自分の部屋まで臭くなった」と言うように。
その対応として管理会社の要請をもって隣室に出向いたが、客観的に、室内において異臭の存在は認められず。
また、始めの特殊清掃時には異臭の外部漏洩は止めることができたし、作業を進めるにしたがって現場の異臭も消えていった。
ただ、隣人は、自室を出入りする度、何日もこのニオイを嗅ぎ続けていたわけで、同じ悪臭でも糞尿やゴミのニオイなら気持ちも変わってくるのだろうが、その原因が遺体とわかったとき精神的に大きなダメージを受け、そのせいで、鼻ではなく精神面でいつまでもニオイを感じてしまっているものと思われた。
「まだ臭うような気がする・・・」と、隣人の口から吐露される言葉は苦情から苦悩に変わっていった。
どうも、自分の臭覚に自信が持てなくなってきたよう。
そうは言っても、それは、個人の主観的感覚。
尊重されるべき余地はあるし、他人が否定して片づくことでもない。
とにかく当人のメンタルを復活させないといけないわけで、結局、人体や家財に影響がでないレベルで隣室においても消臭苦情を実施。
同時に、故人の部屋の作業状況を実状に則して説明し、キチンと原状を回復していっている様を具体的にイメージしてもらうよう努力。
最終的には、新築同然にきれいになった現場の部屋を直接確認してもらい、一件落着となった。