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生前整理が気になりだしたら?
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「断捨離」という言葉が一般化し、肯定的に受け入れられるようになって久しい。
余計はモノを持たない暮らしは、清々しいもの。
やや大袈裟な言い方になるが、身の周りを軽くすると心も軽くなる。
当社の施工実績をみても、生前整理は、遺品整理に比べて圧倒的に少ないが、一考してみる価値は充分にある。
生前整理に興味を覚えたらヒューマンケアに相談を。
生前整理とは?
生前整理とは終活の一翼を担う活動で、死後を見据え、健康であるうちに身の回りの整理を行っておくこと。
人口構造や家庭環境をはじめSNSやメディアの影響もあるのか、近年では生前整理に興味を持つ人が増えているよう。
当社も、遺品整理サービスを展開する中で、時折、生前整理の相談を受け、要望に沿って施工することがある。
表立った数は多いとは言えないが、潜在的なニーズは決して低くないと思われる。
しかし、関心はあっても、始めるタイミングや進め方がわからないという人も少なくない。
生前整理はイザというときの備えにはなるが、ひとつ間違えると負担だけが重く感じられるという事態に陥ることがあるため、単に身の回りを片付けるということだけではなく、その向こうにある真の目的を明確に認識しておくことが大切である。
生前整理のメリットは?
生前整理は、単なる物理的なメリットだけではなく時間的なメリットや精神的なメリットもある。
具体的には、家族の負担軽減、相続トラブルの回避、所有物・財産の再確認、将来への不安解消、急な事態への備え、家族愛の再認識などがある。
それらは、心の余裕を持たせてくれ、残りの人生を明るく前向きに生きることに寄与するとともに、家族との絆を強めることにも貢献するものである。
生前整理のデメリットは?
生前整理をスムーズに行うためには、デメリットもしっかり把握しておくことが大切。
自分の死に向き合うにあたって恐れ・悲しみ・淋しさ・切なさといった感情を抱いたり、想い出を整理する過程で懐かしさや愛おしさが過剰に圧し掛かってきたりと、精神的な苦痛を感じることがある。
物品の取捨選択に間違いが生じたり、意思の決定に葛藤が生じたりする場合もある。
また、相応の時間や労力を要し、不用品処分や相続手続きなどかかる費用も負担となる。
生前整理の時期は?
生前整理は、中高齢者だけでなく若い年代の人の中にも意識している人はおり、特に決められた時期はない。
ただ、相応の時間と労力、場合によっては費用がかかるため、始めるためのきっかけが必要。
きっかけになりやすいのは人生の節目で、子供の独立、定年退職、還暦、家族との死別や離別などがそれに当たる。
また、病気がちになったり、心身の老い衰えを強く感じるようになったりした時もきっかけになり得る。
更に、複雑な相続関係がある人や家財・不用品を多い人は生前整理を早めに検討することが良策となる。
確実に託せる人がいない状況でペットを飼っている人も、早めの備えておくことが必要だろう。
人生は、事故や病気など不測の事態がいつ起こっておかしくはなく、気力や体力があるうちに行うことが推奨される。
自然に生活する中で生前整理を思い立ったときが、自分にとって適したタイミングなのかもしれない。
生前整理でやることは?
生前整理で実施することは家財・不用品の処分だけにとどまらず、財産の確認・整理、相続の準備、デジタルデータの整理、遺言書・エンディングノートの作成、各種契約の整理など多岐に渡る。
そして、それらの情報を家族や親族と共有することが重要な基礎となる。
デジタルデータがポイント?
時勢の特徴としてポイントとなるのはデジタルデータ。
アドレス帳に登録された個人情報、撮りためた写真・動画、オンラインで管理されている銀行口座・保険契約などの財産情報、クレジッドカード・ネットバンク・オンライントレード等の取引情報、仮想通貨・電子マネー等の保有情報など、PCやスマホに保存されているデジタルデータには様々なものがある。
各種SNSに至っては利用していない人の方が少ないと思うくらいで、それらのアカウント・暗証番号・パスワード・ID等はしっかり整理して保管しておきたい。
また、人に見られたくないデータや利用していないサービスのアカウント・データは早めに削除しておくことを勧めたい。
逆に、家族に遺したいデータがある場合は、集約してその保管場所を伝えておくことが大切。
オンライン取引やデジタル機器の普及に反してデータの生前整理実施率は低いそうなので、意識して備えることが必要と言える。
生前整理をスムーズに進めるには?
人生を総括する生前整理は一朝一夕には決められず、一朝一夕には進められない。
肉体的にも精神的にも、時間的にも経済的にも相応の負担がかかる。
それを見越して取り組むわけだが、思いつくまま闇雲に手をつけてもうまくは進まない。
目的(ゴール)を明確にして計画を立て、家財処分に自律的な基準を設け、事柄によっては専門家や専門業者を頼ることが重要となる。
計画をつくる
生前整理を円滑に進めるためのポイントとしては、計画性が挙げられる。
やることを一つ一つリストアップし、それぞれに期日を決める。
ただし、実現できなければ意味がないので、無理をするのは禁物。
怠けず、無理せず、自分の心身とよく相談し、自分のペースで平和的に進められる計画を立てることが大切。
その計画を確実に進めることによって達成感が得られるだけでなく、段階的に進めることによってやる気を維持することもできる。
取捨選択にルールつくる
物に対する愛着や執着心は人によって強弱があっても誰もが抱くもので、家財の取捨選択には大きな迷いや葛藤がつきもの。
とりわけ、想い出深い品は処分しにくい。
したがって、一定の基準やルールを設けることが重要となる。
「一年使わなかった物は捨てる」「想い出の品はデータ(動画・画像)で残す」といったルールをつくり、自分自身、毅然とそれに従うようにすると片付けが滞りにくくなる。
専門家に頼る
生前整理の事柄の中には自分で行うには困難なものもあり、時には、専門家や専門業者の手を借りることが得策である場合もある。
相続については弁護士に、相続税については税理士に、不動産登記については司法書士に、手続きや書類作成については行政書士に、家財処分については整理業者に相談するのが適している。
専門家に相談することで整理作業がスムーズに進むだけでなく、間違いが起こりにくいので精神的にも楽かもしれない。
また、自治体の担当窓口に相談すれば、無料で有用な情報を得ることができるので活用してほしい。
生前整理のすすめ
生前整理は、不必要なものを処分し、必要なものを整理する活動。
過ぎた人生を総括するだけでなく、生き方を変えるきっかけとなる作業でもあり、これからの生活の質を向上させる効果もある。
ただ、やるべき事柄が多いため、体力・気力・判断力があるうちに行うことを勧めたい。
将来について不安がある人は生前整理に取り組んで、自分の過去と現在と未来を見つめ直してみてはいかがだろうか。
ヒューマンケアの生前整理事例
訪れた現場は住宅地の一戸建。
数十年前に宅地造成されたエリアで建物は築古。
依頼者はそこに暮らす住人で70代の女性。
以前、女性の亡夫の遺品整理を施工した縁での依頼だった。
よく「一年使わなかったモノは一生使わない」と言われるが、亡夫の遺品を整理したときは一年どころか数年、十年以上も使わなかったモノがゴロゴロと出てきた。
古いモノから晩年のモノまで亡夫の残していったモノを片付ける中で、女性はあることに気づいた。
それは、日常生活に必要ないモノの多さ、経年劣化で使えなくなっているモノの多さ、存在自体を忘れているモノの多さ。
女性はそれを痛感したようで、一時的な物欲に惑わされていた自分と、所有欲の空虚さに気気づかないままでいた自分にガッカリしたようでもあった。
そこで一念発起。
余生を心機一転させるためにも遺族の負担を減らすためにも、自分の目の黒いうちに家財をスッキリさせることに。
とはいえ、生前整理と不用品処分、重なる部分は大きいが生前整理はモノに対する愛着や想い出等、高い精神性が伴う。
単に「いらないモノを捨てる」という概念だけでは進められないものでもある。
所有欲・想い出・必要性など、気持ちのバランスをとりながら進めないと生前整理の意味を見失ってしまう。
生前整理と断捨離の概念は似て非なるもの。
断捨離だと「欲しいから手に入れる(買う)」といった志向が否定されがちで「必要だから手に入れる」といった価値観が重んじられる。
しかし、以降の生活が無機質で味気ないものになってしまったら元も子もない。
人生、いくつになっても遊び心を持ち続け、生活の趣や情緒を楽しむことは大切。
したがって、女性の取捨選択の価値判断が極端に偏らないようアドバイスしながら、作業を進めていったのだった。