- Q
ペット不可物件で飼育されてしまった場合の対処方法は?
- A
近年、ペットを飼う人が増えているようで、中には、ペット不可物件で隠れて飼っている人もいる。
そして、その多くは、周囲に発覚しないよう、細心の注意を払って生活している。
部屋を汚さないように、内装を傷めないように、ニオイがこもらないように、騒音を出さないよう、こまめに掃除し、糞尿の世話もキチンと行い、ペットの身体を清潔に保ち、ペット共々できるだけ快適に暮らせるよう心掛ける。
そのように、隠れて飼う借主(飼主)の多くは相当に気を配っているわけで、事実、部屋がヒドく汚れたり、内装設備がヒドく傷んだりするケースは少ない。
当社も、そういった案件で相談を受け、消臭・消毒を施工することがある。
ペット不可契約は有効?
アパートやマンションの賃貸借契約でペット飼育を禁止する旨の特約を設けることは問題なく有効とされる。
賃貸物件にかぎらず、分譲マンションの管理規約に定められることもあり、これを有効とする裁判例もある。
ペットによる内装設備の汚損、糞尿によるニオイ、鳴き声など、他の入居者や近隣住人に迷惑がかかる懸念もあり、合理的な理由があると認められるからである。
したがって、その特約に違反してペットを飼うと明らかな契約違反となる。
ただし、賃貸借契約を解除するにはそれだけでは足りず、違反の程度・状態・経緯などによって「信頼関係が破壊された」と認められることが必要となる。
問題になりやすいケースは?
大きな問題に発展しやすいのは多頭飼育や世話を怠った飼主による飼育崩壊。
不衛生極まりなく、ペットにとっても極めて劣悪な環境で、「猫屋敷(猫部屋)」「犬屋敷(犬部屋)」と呼ばれるような深刻なケースである。
こういった現場への対応も当社の業務の一つなのだが、原状回復させるには相応の時間を費用を要する。
ただ、重症の場合も当初から深刻な状態だったわけではなく、飼いはじめの頃に問題はなかったはず。
それが、時と共に数が増え、世話が滞るようになり、結果的に重症化するわけで、ペットを飼っている以上、そのリスクはどの案件にも潜んでいるものとも言える。
したがって、問題が可視化されていなくても、貸主としては早い段階から注意警戒することが重要となる。
貸主がとるべき対応は?
ペット飼育によって深刻な問題が引き起こされる可能性がある以上、貸主は悠長にしていてはいけないことになる。
もし、貸主が、借主がペットを飼っているのを知った段階で飼育を止めるよう促さなかった場合、裁判所から「黙示の承認」とみなされる可能性がある。
また、それが既成事実化して飼育を黙認したと評価されたり、他の住人のモラルが低下したり、これに不安を抱いた住人が退去してしまったりするおそれもあり、そうなると物件の価値が下がってしまい、この部屋の問題だけでは済まない大きな損害を被ることになりかねない。
とにかく、賃貸している物件で動物を見かけたり、その類の情報がもたらされたりしたら、写真や動画を撮って飼主(借主)を確認するなど、早急に対処すべき。
そして、ペット飼育禁止の契約違反を犯している借主(部屋)が判明した場合は、それが常態化しないうちに対応する必要がある。
賃貸借契約は解除できる?
賃貸借契約によって得た住処は入居者の生活の基盤となっているため、軽微な契約違反で退去を余儀なくされることのないよう社会政策的な要請があり、ベースにある借地借家法も借主保護に主眼が置かれている。
ただし、一回限りの関係で終わる売買契約とは異なり賃貸借契約は長期間継続するものであり、かつ貸主・借主の間、相互の信頼関係を基礎としているため、借主の行為によって信頼関係が破壊された場合には、貸主の利益を守るために解除を認めるべきとするのが判例法理である。
とは言え、借主が契約に違反してペットを飼育していたとしても、それが直ちに「信頼関係を破壊した」と評価できるかどうかは一概に判断できるものではなく微妙な問題となる。
賃貸借契約解除のポイントは?
問題解決を図る中で賃貸借契約の解除が視野に入っても、借主に対してただちに通知するのではなく、まずはペットの飼育をやめるよう申し入れる。
契約を解除するには、原則として、借主に対して相当な期間を定めて、その期間内にペットを飼うことを止めなければ契約を解除する旨を書面で通知する必要がある。
これは、契約解除を前にして、契約違反状態を是正する最後の機会を与えるもので、手続き上は「催告」と言われる。
口頭だけではなく、書面でも、しかも多くの回数を行うことがポイント。
その上で、借主が飼育をやめることを約束してくれない、または飼育をやめないときは、貸主・借主間の信頼関係は破壊されたと判断できるため、賃貸借契約解除を具体的に検討する。
ただし、これまでに幾度もペット飼育をやめるよう申し入れてきた事実があるときや、猶予期間の合意を守らない場合には、もはや是正の機会を与える理由はないため、ただちに解除する旨の通知を行っても問題はない。
実力行使は認められる?
退去後に問題となるのは原状回復についてで、消臭消毒は自ずと賃借人の負担となる。
住まいを変えることは生活が一変する大きなライフイベントであり、軽々には考えられず易々とできることでもない。
ペットが一緒であれば尚更。
したがって、賃貸借契約の解除を通告しても、借主がすみやかに退去するとはかぎらない。
とは言っても、貸主が勝手に鍵を変えたり、部屋に入って家財生活用品を持ち出したり、処分したりすることは認められない。
借主が要求に応じない、状況が改善しないからといっても、貸主の実力行使は認められず、もし行使した場合は、住居侵入罪・窃盗罪・器物損壊罪といった刑法上の罪に問われることになる。
強制的に退去させるには?
色々と手を尽くしても、結局、借主が退去に応じない場合は、強制退去を視野に入れなければならなくなる。
そうなると、裁判所へ訴訟を提起することになるわけが、単に退去を求めるだけで済む話ではなく、強制執行や損害賠償請求などが絡んでくることもあり、事実上、これを円滑に進めるには弁護士などの専門家の知識・経験・実務能力が必要。
罪のないペットが路頭に迷うようなことがないように配慮しながら、できるだけ早い段階、つまり、賃貸借契約の解除が頭に浮かんだ時点で専門家の手を借りるのが肝要である。