- Q
ゴミ屋敷・ゴミ部屋にしてしまったが追い出される?
- A
借り受けて生活している物件をゴミ屋敷にしてしまった場合、借主は貸主(大家)から退去を迫られることがあるだろうか。
結論から言うと、貸主はゴミ部屋の借主に退去命令を出すことができる。
一般的に退去命令が認められる理由としては、家賃滞納が三ヶ月以上続いており返済の意思もないこと、契約違反により信頼関係が喪失していること、この二点が挙げられる。
ゴミ部屋については、その後者が該当する。
ただ、借地借家法の規定によって借主は強固に保護されており、借主に非があるとしても簡単に退去はさせられないといった現実もある。
時間の猶予はどれくらいある?
「三カ月以上の家賃滞納」「信頼関係の喪失」があっても、申入れを受けてすぐに退去はさせられるわけではない。
借地借家法第27条で、借主が入居者に賃貸借契約の解約を求める際には6ヶ月前までに告知しなければならないと定められているからである。
併せて、退去請求にあたって求められる正当事由については、賃貸借契約などの継続的な契約における「信頼関係破壊の法理」や「用法遵守義務」を考慮のうえ判断される。
信頼関係破壊の法理・用途遵守義務とは?
「信頼関係破壊の法理」とは、借主の債務不履行の程度に応じて契約解除をするか否かを判断するという法理のことで、信頼関係が破壊されたと言えるほどの債務不履行であれば解除を認めるという考え方。
「用法遵守義務」とは、賃貸借契約によって決められている用法に則って目的物を使用しなければならないという民法にもとづく義務。
「信頼関係破壊の法理」「用法遵守義務」は、借主の迷惑行為全般に適用されるものである。
トラブルになりやすいのは?
迷惑行為の代表格は家賃滞納だが、騒音・悪臭・害虫・ペット・漏水に起因するトラブルもありがち。
エレベーター等の共用設備や、ゴミ置場や階段通路等の共用部の使用法を巡るものもある。
ゴミ部屋もその一つ。
ゴミ部屋から悪臭や害虫を発生させ、他の入居者からクレームが相次ぐような状態では「信頼関係破壊」「用法遵守義務違反」と考えられる。
大問題に発展する可能性はある?
ただちに追い出されるわけではないからと言って、ゴミ部屋がゆるされるわけではない。
賃貸している物件がゴミ部屋になっていることを知ったうえで事を穏便に済ませようとする貸主は少ない。
何らかの対策を講じてくるのは当然。
通常は、ゴミの撤去、部屋の清掃、内装設備の修繕など、多くのことを求められることになる。
もちろん、関連法規に照らした客観的な判断にもとづけば、貸主の要求に抗弁できる部分もあるだろう。
それでも、ゴミ部屋にしてしまった以上、借主に非があるのは明白で、相応の損害賠償とともに退去を求められる可能性も低くはない。
そうなると、ゴミの撤去費用をはじめ、清掃代・内装設備修繕代の一部、更に、新居の契約費用や引越費用もかかり、借主の負担は膨大なものとなる。
費用面だけでなく新居の契約審査に影響することがあるかもしれないので、軽く考えるのは賢明ではない。
貸主から注意勧告を受けたら?
強制退去を回避し少しでも平和的に解決するためには、貸主(大家)に誠意を示し、貸主に真摯に向き合うことが大切。
まずは、貸主や管理会社からの注意や書面は無視をせず、何らかのリアクションをとること。
できることなら直接話した方がよく、早急に動けない事情があったとしても、事情を説明するだけにとどまらず、片付ける意思があることを明確に伝えた方がよい。
とにかく、強制退去にならないためには、まずは、ゴミを片付けることに注力すること。
ゴミを片付けてしまえば、貸主としても気持ちが納まる可能性が高いので、そこは確実に実行すべきところである。
問題を大きくしないためには?
無視や応答遅滞は貸主側の感情を悪化させるだけなので、借主側からの連絡にはただちに応答すること。
また、当り前の話だが家賃や公共料金は滞納しないこと。
家賃滞納は強制退去の正当事由にあたり、家賃が遅れたり払われなかったりすると、ゴミ部屋問題の火に油を注ぐことになってしまう。
公共料金も同様で、滞納は借主の信用性を著しく阻害する。
したがって、退去予定の有無にかかわらず、家賃や公共料金はキチンと払うべき。
また、悪臭や害虫など、建物共用部や他住人への配慮も怠らないようにすべきである。
ヒューマンケアのゴミ部屋事例
画像の現場は、古いアパートの一室。
暮らしていたのは高齢の男性で、少なめの家財で質素に生活。
居住期間は十年程度。
もともと、生活で発生するゴミはきちんと分別して出していたが、身体の不調か心の不調か、近年では、それもままならなくなったようで、結果的にゴミ部屋になってしまった。
管理会社へ通報したのは隣室の住人。
通路を通り過ぎる際、玄関ドアが開けっぱなしになっていたことがあり、何気なく室内に目をやったところ、ゴミだらけになった部屋が飛び込んできたのだった。
当人は、これまで、家賃滞納はもちろん、周囲の人に迷惑をかけたこともなし。
ゴミが溜まった原因の一つには、体力・気力の衰えが想像でき、「当人に重い過失があった」と言い切れないところもあった。
また、経済的にも身体的にも年齢的にも、新たな部屋を借りるのは困難。
契約審査は通りにくいだろうし、孤独死リスクを理由に受け入れてもらえない可能性もある。
大家も管理会社も、当人を取り巻く諸々の事情を寛容に汲み取り、退去を要求するまでのことはしないことにした。
それにしても、部屋をこのままにしておくわけにはいかない。
ゴキブリ・ハエ・ネズミ・異臭等の害をはじめ、火災の恐れもなくはない。
管理会社は、速やかにゴミを撤去することを本人に要請。
ただ、当人は高齢であり、体調も優れないようで、ゴミを片付ける意思は示したものの、具体的に差配するのは困難な状態。
そこで、管理会社が代行して当社を手配。
年金生活者である当人の資力には余裕がなく、費用面では当社もできるかぎり協力。
内装や設備に多少の傷みは残ったものの、日常生活で使えない程の汚損ではなかったため、ゴミ撤去と清掃だけで復旧。
傷みが酷かった畳だけ、大家の負担で新しいものに入れ換えられた。
ゴミを溜めないことを誓約したうえで、以降も当人は当室に居住できることに。
ただ、身体の調子が思わしくない以上、大家も管理会社も誓約書のみでは心もとない。
思案の結果、役所や病院に相談し、介護保険をつかっての家事支援を契約。
当人の継続居住を実現できたうえ、ゴミ部屋再発のリスクを抑える策が打てたのだった。
専門家への相談のすすめ
賃貸借契約書に記載されている内容に違反している場合は用法遵守義務違反に該当するし、併せて、裁判所に貸主・借主間の信頼関係が破壊された事実があったことが認められた場合は退去を命じられることになる。
借主から注意を受けたときは初動が肝心。
ただ、自分一人でやれることには限界があり、切羽詰まった状態では物事も空回りしやすい。
また、自分一人で抱え込んでしまうのは精神的にもよくない。
ゴミの片付けや清掃は当社のような専門業者に、法律が絡んできたり争訟に発展しそうになったりした場合は弁護士などの専門家に相談することをお勧めしたい。
迅速かつ確実に、貸主の目に見えるかたちで対応すれば貸主の溜飲も下がりやすくなるはずで、それはまた、負担を最小限に抑えたスムーズな問題解決につながるはずである。