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エンディングノートって大切?
- A
長寿社会における人々の価値観や死生観の変化にともない、今や“死”を考えることや、“死”を語ることはタブーではなくなってきている。
そのひとつが終活意識の高まり。
そこで役に立つアイテムのひとつがエンディングノート。
市中には市販品や葬儀会社が宣伝広告で配布しているものが多く出回っている。
遺言書に比べて気軽に活用することができるので、身近なところに置いて日記感覚で手に取るようにすれば、人生を見つめ直すチャンスを日常的に手に入れることができるはずである。
エンディングノートとは?
エンディングノート(終活ノート)は「死後の代弁者」とも言える。
終活の一環で作成されるノートであり、世の中に広まったのは近年で、映画による影響で興味を持つ人が増加したとされている。
文字どおり、人生の終わりについて記したもので、これまでの人生を振り返ったり、自分の想いを家族や友人に残したりするためのもの。
残りの人生をどう歩んでいくのか、人生の最期をどう迎えるのかを考えるために書くものでもある。
また、想いだけではなく、終末期の希望、遺産や葬儀・墓などについて書くこともポイント。
遺言書のように法的な効力はないが、自分がすべきことやしたいことが整理され、以後の生き方を見直せるといったメリットがある。
同時に、残された家族が手続きを進めるうえでの一助となり、その負担を軽くすることもできる。
エンディングノートの目的は?
主な目的は、自分の想いを家族や周りの人に伝えること。
エンディングノートは、自分がどのような状況にあるのか、人生の終期をどのように過ごしたいのか、亡くなった後の始末をどうして欲しいのか、そういったことに関する意思や希望を伝えるツールである。
一方の受け取る側も、具体化された本人の想いに触れることで、難局においても迅速かつ望ましい判断ができるようになったり、予期しにくい死後の手続きが楽に行えるようになったりする。
死に備えて用意するものと考えられがちだが、生きている間での役割も非常に大きいのである。
エンディングノートの内容は?
書き置いた方がよい事柄は以下の通り。
本籍・生年月日・家系図・マイナンバー等、自分自身に関する情報。
財布・鍵・免許証・健康保険証・年金手帳・パスポート・マイナンバーカード・保険証券・有価証券・銀行通帳・印鑑・カード等、重要書類などの保管場所。
亡くなったことを知らせてほしい親戚や友人の氏名・住所・連絡先など。
処分してほしいものや誰かに遺しておきたいものの品目。
預貯金・不動産・有価物、また借金・貸金などの資産状況。
葬儀形式や墓(埋葬方法)についての希望や予算など。
かかりつけの病院や主治医、延命措置や終末期医療など、医療や介護についての希望。
遺言書との違いは?
エンディングノートと似たような役割を果たすものとして遺言書があるが、二つの根本的な違いは法的な拘束力があるかどうか。
どちらも遺産や相続など関する遺志を書くことができるが、エンディングノートには法的強制力がない反面、遺言書は法的な強制力を持つ。
したがって、エンディングノートと遺言書の内容に矛盾がある場合、エンディングノートの方が劣後し、遺言書の内容が優先されるということになる。
したがって、場合によっては、相続で揉めないよう遺言書を作成しておくことも必要となる。
ただ、遺言書に書くことができるのは死後に関する事柄に限定され、その範囲も遺産相続や血縁に関する認知など厳格に定められている。
一方、エンディングノートは、事柄に縛られることなく、生前に関することや自分の希望・意思を自由に書き留めることができる。
エンディングノートのメリットは?
「家族の負担を軽減することができる」
財産や相続、葬儀や墓のこと等を書き残しておけば死後の諸手続きの煩雑さを軽減することができる。
また、医療や介護、終末期の医療や延命措置などを明記しておけば、意志表示ができなくなったり判断力が低下したりした際に家族が悩み迷うことを防いでくれる。
「経済状況が把握できる」
資産状況を洗い出して正確に記入すると自分の経済力がリアルに見えてくる。
そうすることによって、残りの人生をどのように過ごすかプランニングしやすくなる。
また、これは相続にも関わることなので、大切な作業である。
「自分と向き合うことができる」
これから先の人生を充実したものにするため、いかに生きるべきか、いかに生きたいか、自分の人生を見つめ直すきっかけとなる。
人生を振り返ることによって、それまで気づかなかった自分の姿や素直な想いが見えてくるかもしれない。
今後のことについて深く考えることができるのも魅力の一つである。
「想いを託すことができる」
財産・相続・医療・介護・葬儀・墓などについてだけではなく、細やかな想いも遺すことができる。
家族や友人一人一人に対するメッセージも自由に書くことができ、自分がどのような想いを抱いているのか、家族への愛情を示すことができる。
自分の想いを託す最後のメッセージなのである。
エンディングノートのすすめ
生と死は表裏一体。
生きているかぎり、死はいつ訪れるかわからない。
したがって、エンディングノートは高齢者や重い病気を患っている人の人生だけに貢献するものではない。
事実、死に対する備えだけでなく、自分の価値観を見定めるため、自分の志向を変えるため、人生設計のため等々、それらを目的として活用している人もいる。
しかし、現実には、興味はあってもキッカケを掴めないでいる人、どう始めればいいのか分からず先延ばしにしている人、“死とは無縁”と勘違いして興味すら持たない人が多いのではないだろうか。
そこを乗り越え、一歩踏み出してみると、これまでとは違った世界が見えてくるかもしれない。
エンディングノートを活用することによって過去・現在・未来の自分を見つめ直し、人生をより豊かに変えるチャンスを手にしてみてはいかがだろうか。
ヒューマンケアのエンディングノート事例
葬儀社主催の終活イベント。
そこには地域に暮らす多くの高齢者が集まっていた。
当社は、遺品整理・特殊清掃の専門会社として招かれ、一コマのセミナーと相談ブースの一角を担った。
そこにやってきたのは80代の夫婦。
特に身体の具合を悪くしているようではなかったが、高齢者特有の衰えがハッキリと見てとれた
夫妻は、「頭と身体が動くうちに終活を始めよう」と話し合い、このイベントを訪れたのだった。
主な質問は遺品整理の作業内容や費用。
まずは、「悪い意味での“もったいない精神”は捨てること」「自分が残したモノのほとんどがゴミになることを想像してみること」をアドバイスし生前整理を推奨。
その上で、こだわりがどうしても捨てられない物品については、その取り扱いについてエンディングノートに記しておくことをすすめた。
夫妻からは、孤独死の事例も尋ねられた。
どちらかが先に逝き、どちらかが残されるのは必然で、どちらかが一人暮らしになる可能性は充分にある。
孤独死の場合は、エンディングノートの遺志通りには済ませられないケースも少なくないことを伝え、早期に発見されるための人の輪(家族親戚・近隣住民など)を今のうちからつくっておくことをすすめた。
相談を終えて場を離れる夫妻それぞれの手には、会場で配られていたエンディングノートが抱えられていた。
無料配布物につき市販品と比べると簡素な感もあるが、シンプルな分、書き始めるにあたっての壁は低い。
必要があれば市販のエンディングノートにバージョンアップさせてもよいのだから、まずは、夫妻が そこにできるだけの想いを書き込むことを期待したのだった。